情報処理技術者試験解説チャンネル

応用情報技術者試験をはじめとする情報処理技術者試験の午後問題では、「過去10年分を確実に理解しているか」が合格ラインを左右するといわれています。当チャンネルでは、その10年分の午後問題を要点だけに絞り、約10分のコンパクトな解説としてまとめました。限られた時間でも効率よく学習を進められる構成です。

【動画解説】平成28年度春期プロジェクトマネージャ試験午後Ⅰ問1過去問題解説

www.youtube.com 本動画では、平成28年度春期プロジェクトマネージャ試験 午後Ⅰ 問1「プロジェクトのリスク管理」を、問題文・解答例・採点講評の観点に基づいて体系的に解説します。題材は石油化学製品を製造するJ社のプラントにおける設備管理システム刷新で、タブレット活用による日常点検業務の見直しを伴うため、単なるIT更改ではなく業務プロセス変更がプロジェクトの成否に直結します。しかも切替は年末年始のプラント停止期間という絶対的な制約下で行われ、スケジュール遅延が許容されない環境です。この条件設定が、PMとしての「起こってから対処する」姿勢ではなく、起こり得る失敗を先回りで潰すプロアクティブリスク管理を強く要求しており、出題趣旨もまさにそこにあります。午後Ⅰの読解としては、与件に散在する制約条件、現行課題、要求事項の根拠文、関係者の立場と意思決定の背景を丁寧につなぎ、リスクを一般論に逃がさず「このプロジェクト固有の原因と具体的な影響」で記述できるかが得点を左右します。 まず本事例の特性として、プラント運転の安全と継続が業務の最優先であり、点検手順の誤りがプラント停止につながり得るという、通常の業務システムよりも重大な業務影響が前提にあります。現行システムは10年以上前のもので、夜間の入力ミスや入力漏れが起こりやすく、若手作業員が事務所に戻って内容を確認せざるを得ないなど、効率と確実性の両面で課題を抱えています。新システムは通信機能付きタブレットを前提に、現場と事務所が協働して点検を進められる形へ変える狙いがありますが、ここで重要なのは、技術導入そのものが目的ではなく、確実な点検を阻害しない操作性と、現場作業を中断させない業務適合性を同時に満たす必要がある点です。採点講評が一貫して求めるのは、この「現場で新しいやり方が本当に回るのか」という不確実性をリスクとして捉え、早期に検証し、遅延が許されないスケジュール制約の中で確実に収束させるPMの振る舞いです。 設問1では、PMであるK氏が、早い段階からステークホルダの協力を得た目的が問われます。ここでありがちな誤りは「スケジュール遅延を防ぐため」「関係者調整を円滑にするため」といった汎用表現で、採点講評が不十分とするのは、目的がこの案件固有のリスク要因に結び付いていない点です。本問の文脈では、通信機能付きタブレットを活用した新たな日常点検の業務プロセスを導入する必要があり、その導入可否や現場適合性が不確実であることが、開発スケジュール面のリスクになります。したがって、協力を得る目的は、単なる根回しではなく、新たな業務プロセスが現場で成立するかを早期に検証してもらい、仕様の手戻りや現場導入時の混乱による遅延を未然に防ぐことだと整理できます。午後Ⅰの読解ポイントは、協力を得た理由が「新しい業務プロセスの導入」という与件の固有事情に起因していること、そしてそれが「遅延が許されない切替制約」と結び付いていることを、根拠の文章から一気通貫で書くことです。 設問2は、要求事項とリスクを対応付けて具体化する力が問われます。ここでも一般論で「安全性が重要」「セキュリティに注意」と述べるだけでは点が伸びません。安全性に関しては、作業手順の誤りがプラント停止につながりかねないという与件の記述が根拠であり、リスクは「作業手順を間違えてプラントを停止させてしまうこと」と、結果が具体的に表現される必要があります。操作性要件に関しては、点検作業を確実に実施しながら利用でき、作業員の作業を阻害しないことが重要で、これは「点検作業中に使えない操作性だと安全リスクが増幅する」という文脈まで含めて理解すると答案が締まります。効率性要件では、事務所に戻って確認する非効率を解消し、現場と事務所の協働で作業を完結できることが狙いであるため、「事務所に戻らずに作業を完了できること」という形で、現行課題の裏返しとして要件を言語化します。セキュリティリスクは、可搬性確保というメリットの裏側として紛失・盗難が顕在化するため、「タブレット端末の紛失や盗難による情報漏えい」と具体化するのが適切です。そして本問で差がつくのがデータ移行のリスクで、採点講評が求めるのは「データが汚い」という抽象論ではなく、入力間違いや入力漏れを含んだデータが移行されることによって、運用上どのような不具合が生じるかを具体的に述べることです。例えば、誤ったデータが移行されることで正しい点検票が表示されず、現場の点検が確実に実施できなくなるといった、原因と結果が一本の因果でつながった表現が求められます。午後Ⅰでは、この因果の具体性が得点に直結し、採点講評も「何が困るのか」を書けていない答案を厳しく評価しない傾向があります。 設問3は、追加要求への対応と委託先に関するリスクが問われ、ここでも結果だけを書くと減点されやすい構造です。追加機能に対応するために取引実績のないZ社へ委託する場合、単に「工数が増える」「遅延しやすい」では、なぜそうなるのかが説明されていません。採点講評が重視するのは、リスクの要因が「取引実績のないベンダであること」にあり、その結果としてPM側の管理・監視・調整の負荷が増大し、進捗・品質の不確実性が高まるという筋道です。つまり、未知のベンダに対して要求の伝達、成果物レビュー、品質基準のすり合わせ、エスカレーションのルール整備など、管理の仕組みづくり自体が追加コストになる点が本質であり、PMとしてはその負荷と不確実性をリスクとして認識し、早期に管理計画へ織り込むことが求められます。 本問全体を通して、視聴者が学べるのは、リスクを列挙する技法ではなく、与件からリスクの「原因」を拾い、要求事項や制約と結び付けて「具体的な影響」を言語化し、さらに「事前の備え」としてプロジェクト計画や関係者協働に落とすというPMの基本動作です。難所は、スケジュール遅延が許されないという強い制約があるにもかかわらず、リスクを一般論で処理してしまうと、なぜ早期協力が必要なのか、なぜデータ検証が必須なのか、なぜ委託先の選定が管理負荷に直結するのかが説明できなくなる点にあります。午後Ⅰの答案では、短い字数であっても「この事例固有の一文」を入れるだけで説得力が上がるため、新しい業務プロセスの導入、入力間違い・漏れを含むデータ、取引実績のないZ社といった固有語を、原因として必ず組み込むことが得点戦略として有効です。 最後に、この動画を見る意義をまとめると、平成28年度春期プロジェクトマネージャ試験 午後Ⅰ 問1を素材に、リスク管理を「事後対応の注意喚起」ではなく「事前に潰す設計と運用の段取り」として捉える視点を獲得できる点にあります。与件の制約と現場業務の重みを踏まえ、ステークホルダ協力の目的を具体化し、要求事項とリスクを因果で結び、委託先選定に伴う管理負荷まで見通した上で、答案として再現性のある表現に落とす力は、試験対策としてだけでなく実務のPMにもそのまま直結します。本動画で、採点講評が求める具体性と因果の書き方を固め、午後Ⅰで安定して得点できるリスク管理の答案作法を身に付けてください。