www.youtube.com 本動画では、令和4年度春期システムアーキテクト試験の午後Ⅰ問1「新たなコンタクトセンタシステムの構築」を、問題文・解答例・採点講評の観点に沿って解説します。題材は個人向け商品を販売するA社が、顧客体験(CX)の向上と業務効率化を両立させるために、AIとクラウドを活用した新たなコンタクトセンタ基盤を導入するというものです。午後Ⅰらしく、与件に散らばる前提条件と制約条件を正確に拾い、設問が求める粒度で根拠付きに言い切れるかが得点を左右します。技術用語の理解そのものよりも、どの課題にどの機能が対応しているのか、導入方針の例外条件がどこに置かれているのか、運用ルールが機能制約としてどのように効いてくるのかを読み切る「読解設計」が主戦場になる問題です。 全体像としてA社は、電話とWebフォーム中心の現状から、チャットやビデオ通話を含むオムニチャネルへ拡張しようとしています。背景には、採用難と在宅勤務ニーズを受けたオペレータの働き方の見直し、キャンペーンや新商品発売時に集中する呼量の変動への耐性不足、営業時間外に対応できないことで生じる販売機会の損失、さらに顧客の声を商品改善に十分生かせていないという情報活用面の課題が並行して存在します。ここで重要なのは、与件が提示する課題が単独で解決されるのではなく、クラウド型PBX、AIチャットボット/ボイスボット、有有人チャット、コールバック、キーワード分析といった複数の施策が、互いの弱点を補い合いながら全体としてCXと効率を引き上げる設計になっている点です。午後Ⅰでは、この「機能と狙いの対応関係」を資料根拠で固定できるかどうかが、設問1を通じて繰り返し試されます。 設問1ではまず、クラウド型PBXを導入する狙いを、機能説明の文言と課題の記述に対応付けて答える必要があります。従来PBXがセンタ内にあり出社前提だったところを、PC上のソフトフォンとしてインターネット経由で通話可能にすることで、オペレータが物理拠点に縛られず在宅勤務を実現できる、という因果が与件に明確に置かれています。ここで「在宅勤務の実現」と言い切れるのは、単なる一般論ではなく、働き方に関する課題記述と、クラウド型PBXの機能記述がセットで提示されているからです。午後Ⅰの読解では、このように「課題の箇条(表)と機能概要(表)を横断して根拠を二点で押さえる」読み方が安定得点に直結します。 続いてAIチャットボット/ボイスボットの稼働当初の対象は、採点講評でも誤答が多い論点になりやすい箇所です。ここは、単に「定型的だからAI向き」という一般的な判断だけで選ぶと外します。導入方針として、急増しやすい問い合わせであり、各機能の特徴で対応できる見込みが高いことに加えて、「顧客が使用中の商品に関する問い合わせは稼働当初は対象にしない」という例外条件が明示されています。読み落としやすいのは、この例外条件が一見するとAI活用方針と逆方向に見える点で、だからこそ出題者は「新商品購入者の声を直接聞きたい」という業務目的を優先する判断を、与件から正しく引き出せるかを見ています。結果として、よくある問い合わせの分類から、購入方法の情報収集や会員情報の確認のように回答が明確で定型的であり、キャンペーン等で急増しやすい領域を稼働当初の対象として選び、使用中商品の問い合わせは除外する、という結論に到達できるかが合否を分けます。午後Ⅰの難所は、この「条件3による除外」を確実に踏むことで、該当箇所を見落とすと一気に失点につながる設計になっています。 AIチャットから有人チャットへ切り替えられない条件も、機能仕様だけでなく運用ルールが制約になる典型例です。AIチャットボット側の仕様には、ある条件では有人チャットを起動できない設定にする、と書かれていますが、その条件は技術ではなく運用に置かれています。オペレータの勤務時間帯は従来どおり日中のみという前提が与えられている以上、オペレータ不在の時間帯は有人へ切り替えられない、と読めます。この設問は、午後Ⅰらしく「設定可能」という技術的記述と「運用ルール」という業務的記述を突き合わせ、結果としての制約条件を答えさせる形で、読解の丁寧さを問うています。ここで「夜間はオペレータがいないから」と短く言ってもよいのですが、採点者が評価しやすいのは「オペレータの勤務時間帯以外」と与件表現に寄せた言い方で、根拠の置き場所が明確になります。 コールバックが解決する課題は、表にある課題と機能の一対一対応を素直に当てる設問ですが、午後Ⅰではこの種の設問でも「機能がどのように課題を解消するか」を因果で説明できると、他の設問にも波及して読みが安定します。電話がつながるまで待たされクレームにつながる問題に対し、待ち続けるか折返しを要求するかを選べることで、顧客の体験を悪化させる待ち時間の強制を回避できる、という関係です。単に課題記号を答えるだけで済む形式でも、背景の因果を理解していると、別の場面で同様の機能を問われたときに応用が効きます。 キーワード分析を商品事業部が利用する理由は、情報活用の論点であり、採点講評でも「分析するから」止まりの浅い記述が減点になりやすい箇所です。与件は、コンタクトセンタ内で解決できない内容以外が十分共有されておらず、商品改善のために他の情報も有効活用したいという課題を示しています。したがって、通話や問い合わせ内容をテキスト化してキーワード分析すること自体が目的ではなく、問い合わせ・クレーム傾向を把握して商品の改善につなげる、という利用目的まで踏み込んで答える必要があります。午後Ⅰでは、このように「機能名」ではなく「業務利用目的」を問う設問が混ざるため、設問文の動詞が「利用する理由」であることを見落とさず、成果にまで言及することが得点に直結します。 設問2は、システム導入後の運用設計に関する読み取りで、午後Ⅰの中でもやや抽象度が上がります。有人チャットによる効率的な顧客対応の要点は、電話が本質的に一対一であるのに対し、チャットは一人のオペレータが複数セッションを同時に扱えることにあります。与件には、有人チャット専任体制とし、同時に複数の顧客対応が可能という機能が明記されているため、「一人で同時に複数対応できることで生産性が上がる」と因果でまとめるのが適切です。この設問で重要なのは、効率化の説明を「専任にするから効率的」といった体制論で終わらせず、同時対応というチャット固有の特性に根拠を置く点で、採点講評が重視する「与件にある具体の仕組み」を答える姿勢が問われています。 拠点間で柔軟に振り分けが必要なもう一つの状況は、急増対応だけではなくBCPの観点を読ませる設問です。大規模災害や感染症拡大などで特定センタを一時閉鎖せざるを得ないという課題が与件にある以上、閉鎖時にも別拠点で受けられるようにすることが、柔軟な振り分けの第二の理由になります。ここは、単に「災害時」と短く答えるだけでなく、「特定センタを閉鎖せざるを得ない状況」と与件表現に寄せることで、採点者に根拠が伝わりやすくなります。午後Ⅰの読解ポイントとして、急増と災害という二つの文脈が別の箇所に置かれ、それを「もう一つ」として結び付ける形になっているため、下線部周辺だけを読んでいると取りこぼしやすい構造です。 随時FAQを作成・公開する目的は、運用施策が呼量制御に直結するという視点が問われます。新商品発売時はFAQ未整備のため簡単な問い合わせが急増するという課題があるので、FAQを随時作成して公開する狙いは、顧客の自己解決を促し、簡単な問い合わせによる入電やチャットの集中を抑制して、オペレータの負荷を平準化することにあります。採点講評の観点では「早期に載せる」だけでは効果が説明できていないと評価されがちで、急増を防ぐという因果まで書けているかが差になります。午後Ⅰではこのように、施策の「目的」が運用上の効果として表現できるかが問われるため、与件中の課題文をそのまま再構成して答えるのが安全です。 この問題の本質は、AIやクラウドという技術を導入すること自体ではなく、限られた人的リソースであるオペレータの価値を高めるように業務を再設計し、CXを損なわずに処理量の変動に耐える運用を作る点にあります。定型的で急増する問い合わせはAIやFAQで吸収し、24時間対応も含めて入口を広げつつ、複雑で顧客の感情や判断が絡む領域は有人に集約し、チャットの同時対応や拠点分散で生産性と継続性を確保するという全体最適の設計が、与件の各施策に通底しています。午後Ⅰとしての最大の難所は、稼働当初の対象外条件のような例外が、技術的な合理性よりも業務目的を優先して置かれている点で、ここを読み落とすと方針ごと誤ってしまいます。また、運用ルールが機能制約を生む箇所や、急増対応とBCP対応が同じ仕組みで実現される箇所など、複数の根拠を跨いで結論を作る設問が散りばめられており、部分的な読みでは得点が安定しません。 最後に、この動画を見る意義をまとめると、解答例をなぞるだけでは身に付かない午後Ⅰの勝ち筋、すなわち与件から条件を抽出し、設問が要求する観点と粒度を先に固定し、例外条件や運用制約を含めて根拠付きで言い切る読解手順を、問1を題材に再現可能な形で理解できる点にあります。システムアーキテクト試験の午後Ⅰで得点を伸ばすために必要な「技術を業務課題に対応付ける読み方」と「採点講評が求める書き方」を、この一問を通して確実に体得してください。