情報処理技術者試験解説チャンネル

応用情報技術者試験をはじめとする情報処理技術者試験の午後問題では、「過去10年分を確実に理解しているか」が合格ラインを左右するといわれています。当チャンネルでは、その10年分の午後問題を要点だけに絞り、約10分のコンパクトな解説としてまとめました。限られた時間でも効率よく学習を進められる構成です。

【動画解説】令和4年度春期システムアーキテクト試験午後Ⅰ問2過去問題解説

www.youtube.com 本動画では、令和4年度春期システムアーキテクト試験の午後Ⅰ問2「品質管理システムの構築」を、問題文・解答例・採点講評の観点に沿って解説します。題材は食品メーカD社の品質管理業務で、紙帳票や電話連絡に依存したアナログ運用を、タブレット入力とリアルタイム参照を軸にデジタル化し、担当者変更の柔軟性、作業負荷の可視化、進捗管理の即時性を実現するというシナリオです。午後Ⅰとしての勝負所は、与件に書かれた業務ルールをそのまま要件に落とし込み、ファイル設計や抽出条件に矛盾なく反映できるかにあります。単に「システム化すれば便利になる」という一般論では点にならず、どのデータを正とし、どのタイミングの情報を参照し、どの条件で集計・抽出するのかを、業務の意図と整合させて言語化できるかが合否を分けます。 全体構造として、D社の品質検査は製造日と便単位で進み、ロットごとに製造完了後に品質検査を行い、結果に応じて追加製造も発生し得る業務です。現行では、検査担当者の突発変更への対応や、現場での集計・照合、事務所への完了報告が手作業と電話連絡に依存しており、状況把握の遅れや負荷の偏りが問題になっています。新システムでは、現場の入力をデータ化して即時に見える化し、検査責任者が事務所から進捗を把握しながら指示や承認を行えるようにします。ここで重要なのは、デジタル化の対象が「検査結果」だけではなく、担当者割当てや担当者変更の履歴、計画・見込みに基づく負荷の算定、出荷前承認に必要な集計条件といった、業務の意思決定に直結する情報まで含まれている点です。午後Ⅰでは、こうした意思決定の根拠となる情報が、実績データなのかマスタデータなのか、当初計画なのか変更後なのか、通常製造なのか追加製造なのか、といった区別を読み違えると一気に失点します。 設問1は、担当者変更機能と品質検査指示作成機能を題材に、ファイル設計と抽出ロジックの妥当性を問うています。検査担当者変更ファイルの主キーは、担当者変更という事象が何によって一意に特定されるかを、与件の業務記述から導く問題です。担当者変更は、特定の製造日と便において、品目ごとに割当てられていた検査担当者を別の担当者に変更する、という運用が前提です。したがって、いつの製造かを示す製造日、どの便かを示す便コード、どの品目かを示す品目コードの組合せで、その変更対象が一意になります。ここで担当者IDを主キーに含めたくなる受験者もいますが、業務要件は「誰の変更か」ではなく「どの対象(製造日×便×品目)の割当てを変えるか」です。午後Ⅰでは、主キーは業務上の一意性の定義そのものであり、対象を取り違えると以後の設計・抽出が崩れます。 同じ設問1の機能概要(b)は、担当者変更を行う際に検査責任者が何を見て変更先を決めるのか、という意思決定情報を問うています。与件では、変更先とする検査担当者を決定するための情報を表示したいという要望があり、その中身として、変更する製造日・便における各検査担当者の作業負荷、すなわち見込回数などを確認したいことが示されています。したがって、(b)に入るべきは「各検査担当者の作業負荷の確認」です。ここは、単に一覧を出すのではなく、決定の根拠となる負荷情報を提示することが狙いであり、採点者が見ているのは「表示の目的」を要件として言い切れているかです。 さらに設問1で難所になりやすいのが、検査担当者マスタからデータを抽出する理由です。見込回数を算定する際に前週実績を参照するという流れだけを追うと、実績ファイルだけを見ればよいように思えますが、与件には重要な例外条件が置かれています。過去に担当者変更が行われていた場合でも、変更後に実際に検査した担当者の実績ではなく、変更前に割り当てられていた担当者の割当てに従って集計してほしい、という業務要望です。これは「誰が実際にやったか」ではなく「本来その便・品目を担当するのは誰か」という計画・割当ての傾向を知りたい、という意図であり、作業負荷の見込みを公平に評価するための設計思想です。実績ファイルだけを参照すると、変更があった場合に実施者の側へ負荷が寄って見えてしまい、元の割当ての偏りや標準的な負荷が見えなくなります。だからこそ、集計の基準を「変更前の割当て」に固定するために、検査担当者マスタを参照する必要がある、という論理になります。午後Ⅰの採点講評で差がつくのは、この種の「例外条件が集計基準を反転させる」箇所を読み落とさず、なぜそのデータ源が必要かを因果で説明できるかです。 設問2は、品質検査実績入力の条件として、検査担当者が次に検査すべきロットをシステムがどう提示するかという抽出・整列のロジックを問うています。与件の業務ルールとして、検査担当者は製造完了日時が古い順にロットの品質検査を実施することが明記されているため、システムが提示すべき対象もその順序に従う必要があります。ここでのポイントは、単に古い順に並べるだけでは足りず、そもそも対象となるのは検査が未実施のロットに限られるということです。したがって、抽出条件としては検査結果が未実施であることをまず担保し、その集合の中で製造完了日時が最も古いものを選ぶ、という二段構えの条件になります。午後Ⅰでは、こうした「対象集合の定義」と「優先順位(最古)」を混同し、片方だけ答えてしまう失点が起きやすいので、設問が求める条件が複数軸であることを、設問文の指示から丁寧に読み取るのが重要です。 設問3は、出荷前承認機能と業務改善を題材に、システム化によって不要になる作業と、それでも人手の承認が必要な理由を切り分けて答えさせる構成になっています。ここで問われているのは、単に「自動化できる/できない」の一般論ではなく、どの情報がシステム内で完結し、どの情報がシステム外の部署報告に依存するかという境界の理解です。不要となる業務として挙げるべきは、現行で担当者が合格数を集計して製造指示数と照合する作業や、電話等で事務所へ完了報告する作業のように、進捗把握のために発生していた確認・連絡の手間です。新システムでは、検査結果が入力されれば完了状況がリアルタイムに参照でき、検査責任者が事務所から直接確認できるため、現場側が集計して連絡するという中間作業は不要になります。このときの答え方で重要なのは、「不要になる業務」と「不要になる理由」をセットにし、理由を新システムの提供価値である即時参照に結び付けることです。 同じ設問3での抽出条件(c, d)は、承認判定の集計対象を正しく限定できるかが焦点です。製造開始時の製造指示数の合計を求める場面では、当初計画分を指しているため、追加製造分を混ぜてはいけません。追加製造は不合格発生後に行われる補正行為であり、当初の指示数の合計を表す指標としては通常分だけを集計するのが整合します。よって追加フラグが通常であることが条件になります。一方で出荷可能な製品の製造数は、品質検査の結果に依存するため、検査結果が合格であるものを集計する必要があります。午後Ⅰの読解ポイントは、同じ「数の集計」でも、何を意味する数なのかによって対象が変わる点で、与件中の用語「製造開始時」「出荷可能」の語感を曖昧にすると、追加分の扱いを誤ってしまいます。 そして採点講評でも差が出やすいのが、承認入力の操作を必須とした理由です。システム内で集計が一致し、条件を満たしているように見えても、それだけで自動承認してよいわけではありません。出荷前承認は、製品検査の完了状況に加え、製造設備の異常の有無や従業員の衛生チェック結果など、各部署からの報告を踏まえた最終確認を行ったうえで実施するという業務要件が与件にあります。これらの情報は品質管理システムの管理対象外であるため、システム上の数値条件が満たされていることは必要条件に過ぎず、十分条件にはなりません。だからこそ、責任者がシステム外の情報も含めて総合判断し、承認操作を手動で行うことを必須としている、という説明が必要になります。ここは、単に「最終確認が必要だから」と抽象的に書くと弱く、何を確認するのかが与件に列挙されているため、設備異常や衛生チェックなどの部署報告を根拠として明示できるかが、採点講評の指摘する「前提条件を明確に書けていない」という失点パターンの回避につながります。 この問2の学習価値は、システム化の設計で最も重要な「業務ルールの可視化とデータ化の境界」を、午後Ⅰの短い解答形式で正確に答える訓練ができる点にあります。データ設計では主キーが業務上の一意性を定義し、抽出条件では運用ルールが表示・処理の優先順位を決め、集計条件では通常と追加、当初計画と補正、実績と割当てといった区別が意味を持ちます。さらに承認プロセスでは、システム化してもなお残る人の判断の根拠が、システム外の情報にあることを明確に意識させられます。難所は、担当者変更があっても変更前の割当てで集計したいという例外条件と、出荷前承認がシステム内の計算だけで完結しないという前提条件で、いずれも与件の一文を落とすと解答全体がずれるタイプの罠になっています。 最後に、この動画を見る意義をまとめると、品質管理という現場業務をデジタル化する際に、どの情報を正とするか、どの例外条件を設計に織り込むか、どこまでをシステムで担保しどこからを人の最終判断に委ねるかという、システムアーキテクトとしての設計視点を、令和4年度春期午後Ⅰ問2を通じて再現可能な形で身に付けられる点にあります。解答例の暗記ではなく、与件から要件を引き出し、採点講評が求める「根拠の明示」と「前提条件の言語化」を徹底することで、同種問題でも安定して得点できる力を固めてください。