www.youtube.com 本動画では、令和5年度(2023年度)秋期 エンベデッドシステムスペシャリスト試験 午後Ⅰ 問2「スマートマラソン訓練システム」を取り上げ、要求仕様の読解から、ドローン撮影・制御の成立条件、データ処理の前提整理、リアルタイムOS上のタスク設計と排他制御、さらに機能追加時の安全性と制御安定化までを、出題趣旨と採点講評で評価される観点に沿って一貫した流れで解説します。午後Ⅰで合否を分けるのは、用語や部品構成の暗記ではなく、問題文と図表に書かれた前提を根拠に、誰がどのタイミングで何を判断し、どのタスクがどの資源をどう管理し、仕様追加で何が不安定化してどの制御を入れるべきかを、論理的に説明できることです。本問は、撮影という目に見える機能の裏に、通信断・データ不足・資源競合・衝突回避・状態遷移の安定化といった組込み特有の論点が複数埋め込まれており、採点講評が重視する「前提理解と設計理由付け」を問う構造になっています。 設問1は、訓練システムとドローンの動作を対象に、データ量の見積り、準備から開始までのメッセージフロー、速度制御の前提、通信障害時の自律継続といった要点を押さえる必要があります。映像データの計算では、画素数が2,000×1,000であること、画素データ長が24ビットであること、フレームレートが30フレーム毎秒であることから、1秒当たりのデータ量を導き、1GBが何秒分に相当するかを算出して5.6秒となる関係を明確にします。ここで重要なのは、Gバイトとビットの換算、フレーム単位の積算、秒への落とし込みで単位を取り違えないことで、午後Ⅰではこの単位監査の正確さがそのまま得点になります。続いて2台のドローンから最大3時間の映像を受信するための容量が6.8Gバイトになる点は、転送速度5Mビット毎秒という通信条件と受信対象時間を結び付け、台数分を加味して見積もれるかを問うています。計算自体よりも、どの条件を掛け合わせるべきかを仕様から抜き出せるかが難所です。 動作概要の穴埋めは語句問題に見えますが、本質は状態遷移のトリガーの特定です。訓練開始前にデータ収集装置がドローンへ撮影準備を送信し、ドローンから訓練開始位置への到達を示すドローン情報を受信して移動を確認した上で、タブレットへ訓練準備完了を通知する流れは、準備完了の判定が「到達通知」に依存している点が重要です。午後Ⅰでは、ここを曖昧にすると後段の機能追加で衝突回避や制御タイミングを説明できなくなるため、誰のどの通知が状態を進めるのかを固定して読むことが不可欠です。速度制御の論点では、直近5秒間の平均速度を算出する方式であるため、訓練開始直後の5秒間はデータが不足し平均速度が算出できず、初期値を使うという「データ不足時の振る舞い」が仕様として置かれています。採点講評で差がつきやすいのは、平均速度を使うという表面的な理解で止めず、開始直後の欠損期間をどう扱うかという境界条件まで説明できるかです。 ドローン制御では、終了位置に到達したドローンが終了指示を受けるまでホバリングで撮影を継続する点が、運用上の確実性を担保する仕様になります。さらに通信障害で飛行計画が受信できない場合でも、あらかじめ保持した飛行ルートを、最後に受信した飛行速度で飛行し続けることで可能な限り撮影を継続する設計になっている点が、通信断に対するフェイルソフトの考え方として重要です。午後Ⅰで失点しやすいのは、通信断=停止と短絡してしまうことで、本問は「撮影を継続する」という要求を満たすために、最後に確定した条件で自律継続するという設計判断を読み取れるかを見ています。 設問2はリアルタイムOS上のタスク設計であり、本問の中心論点はタスク間連携と資源管理です。読解ポイントは、メッセージを周期指示とイベント指示に分け、資源共有が発生する箇所を特定して排他制御の必然を説明することです。訓練タスクから選手タスクへ通知されるメッセージは選手分析送信指示と音声送信指示の二つであり、前者は1秒ごとの周期に結び付く指示として、後者は状況に応じて必要になるイベント指示として位置付けられます。午後Ⅰでは、こうしたメッセージの性質を区別しないと、処理タイミングの説明が不整合になりやすく、採点講評でも「タスクとしての動作を主語で書けるか」が問われる領域です。後続ドローンへの指示では、先頭ドローンの通過目標を基準に飛行ルート上の間隔が300mとなる位置を目標とする点が示され、これは単なる追従ではなく「距離制約」を維持する制御要件です。訓練の自動終了条件として、全選手のゴールに加え訓練開始から1時間30分が経過した場合に終了する点は、運用上のタイムアウト条件であり、異常時でも無限に継続しない安全側の設計として理解できます。 選手タスクの分析では、1区間分を走り切ったと判断したときに区間順位などが算出される点から、処理の粒度が1km単位であることを押さえます。また個人分析結果が送信可能になる条件がフォーム分析結果を受けたときである点は、分析処理が複数段階で構成され、フォーム分析が完了しない限り個人分析が確定しない依存関係があることを示しています。午後Ⅰで重要なのは、処理の順序関係を読み落とさずに説明することで、結果が出る条件を単に「分析したら」ではなく「フォーム分析結果を受けたら」と書けるかが差になります。 排他制御の論点は、採点講評で最も差がつきやすい部分です。選手タスクがフォーム分析ユニットを直接制御せず、フォームタスクを介して分析を行う目的は、フォーム分析ユニットの資源管理にあります。AI分析を行うリソースは限られており、複数の選手タスクが同時に利用要求を出すと、処理の衝突や結果の取り違え、遅延の増大が起き得ます。そこでフォームタスクが窓口となり、要求の受付、順番待ち、利用権の付与と回収といった制御を担うことで、排他制御を実現します。午後Ⅰの答案では、ここを「排他制御のため」と書くだけでは弱く、なぜ排他が必要なのかを共有資源の性質と競合リスクとして説明できるかが合否を分けます。 設問3は注視選手のクローズアップ撮影という機能追加で、衝突回避と制御安定化が中心です。注視選手が存在しないときは通常通り後続ドローンに飛行計画を送信するという条件分岐は、追加機能が例外的であり、通常運用の手順を壊さない設計になっている点を示します。先頭ドローンの飛行計画情報を後続ドローンタスクにも通知する理由が、先頭ドローンと後続ドローンの衝突回避である点は、複数機の相対位置制御が必須であることを示し、機能追加が安全要求を増やすことを明確にしています。クローズアップ撮影中に通過目標が大きく変化するのがクローズアップ選手が変わった場合であるという点は、制御目標が注視対象に依存して動的に変化することを意味し、ここが不具合の温床になります。注視選手が頻繁に入れ替わると、目標が確定する前に次の目標変更が起き、結果としてクローズアップ撮影が始まらない、あるいは切替えが頻発して安定しないという現象が発生します。これを回避するために訓練タスクを変更し、一度決定したクローズアップ選手は一定時間変更しないという制御を追加する必要がある点は、制御理論でいうヒステリシスに相当する考え方であり、追加機能がもたらす不安定化をソフトウェア制御で抑え込む設計判断そのものが問われています。午後Ⅰでは、このように「なぜ不具合が起きるか」と「どうすれば回避できるか」を、状態遷移と目標更新頻度の関係で説明できるかが評価されます。 本動画で視聴者が学べる内容は、午後Ⅰで頻出となる組込みシステムの読解と記述の型を、このスマートマラソン訓練システムで具体化できる点にあります。映像データの見積りでは単位監査と仕様条件の抽出の仕方、メッセージフローでは状態進行のトリガーの特定、速度制御では開始直後のデータ不足という境界条件の扱い、通信断ではフェイルソフトとしての自律継続、タスク設計では周期指示とイベント指示の区別、フォーム分析では共有資源の排他制御の必然、機能追加では衝突回避と制御安定化の設計を、一つの問題として横断的に学べます。本問の難所は、計算問題を単なる算数として処理して前提条件を見落とす点、排他制御を一般論で書いて資源と競合の対応が曖昧になる点、注視選手の切替え頻度が引き起こす制御不安定を見抜けない点にあり、ここを押さえることが得点の安定化に直結します。 最後に、この動画を見る意義をまとめると、令和5年度(2023年度)秋期 エンベデッドシステムスペシャリスト試験 午後Ⅰ 問2を通して、IoTとリアルタイム制御が交差するシステムにおいて、仕様の根拠を外さずに因果を説明し、タスク設計と資源管理を整合的に記述し、機能追加で生じる安全性と安定性の課題を制御方針として落とし込む手順を身に付けられる点にあります。正解語句の暗記ではなく、なぜその設計が必要かを問題文の条件から説明できるようになることで、初見の午後Ⅰでも短時間で論理が崩れない答案を構成できる再現性が高まり、得点の安定化に直結します。