www.youtube.com 本動画では、令和5年度(2023年度)秋期 エンベデッドシステムスペシャリスト試験 午後Ⅰ 問1を取り上げ、建設機械の自動・自律運転システム(SDシステム)を題材に、要件検討から安全設計、センサー活用、制御要件の妥当化、そして機能追加と障害対策までを、出題趣旨と採点講評で評価される観点に沿って一貫した流れで解説します。午後Ⅰとしての読解ポイントは、現場内通信と外部通信、測位と姿勢、監視と制御、作業状態と状態遷移といった概念の境界を崩さずに、問題文の前提と数値条件を根拠として説明できることです。本問は、建設機械という高い安全要求と、凹凸地盤での高精度制御という高い性能要求が同時に課され、さらに通信断やGNSS不可環境といった運用上の制約も含まれるため、技術要素の列挙ではなく、設計判断の理由付けが答案の質を左右します。 設問1では、SDシステムの仕様理解と事故予防の観点が問われます。ここで重要なのは、周辺監視のセンサー構成が単なる冗長化ではなく、環境条件によって性能が劣化する要素を別種のセンサーで補完するという安全設計になっている点です。ACブルドーザがステレオカメラに加えてミリ波レーダーを用いる理由は、ステレオカメラが天候不良時や夜間の撮影に適さないという弱点を持つ一方で、ミリ波レーダーはそのような環境下でも検出性能が低下しにくいという特性があるためであり、両者の併用によって検知が環境依存で破綻しにくい構成になります。午後Ⅰで差がつくのは、ここを「安全のために複数センサー」と抽象化せず、「どの環境で何が弱く、何がそれを補うのか」を因果で書けるかです。 同じ設問1の通信異常の特定は、通信の役割分担を理解していないと説明が崩れやすい論点です。特定の車両だけがSDサービスに情報を通知せずに停止した原因が、その車両のL5G通信異常であるという点は、現場内通信が車両間・端末間の協調の前提であることを示しています。L5GはAC車両、タブレット端末、現場事務所間の通信に用いられ、異常時は運転停止し故障表示灯を点滅させる仕様になっているため、通信断が単なる「情報が届かない」問題にとどまらず、安全側のフェイルセーフとして「止まる」という挙動に結び付いています。採点講評で評価されるのは、通信異常という事実と停止挙動という仕様を結び付けて説明できるかであり、原因を機械故障一般にすり替えないことが重要です。遠隔監視制御の観点では、P5Gを介して受信するデータのうち、車両位置の高精度化に直結する重要データが測位補強データであり、これによってセンチメートル級の高精度測位が可能になる点を押さえます。ここも単に「高精度測位ができる」ではなく、GNSS単体では不足する精度を補強データで補うという設計意図として説明することが午後Ⅰの解答品質につながります。 設問2は、本問の中核である設計と制御要件の妥当化が問われ、午後Ⅰとして最も差がつく領域です。読解ポイントは、測位の更新周期と制御周期が一致しないという制約を明確に捉え、そのギャップをIMU等で埋めるという制御系設計の必然を説明することです。ACブルドーザは屋根に2台のGNSS受信部を搭載し、位置情報だけでなく車体の方向(方位)や計測値の確からしさを取得する構成になっています。ここで重要なのは、2台搭載の目的が「冗長化」ではなく、方位推定や信頼性評価にある点で、問題文が示す取得項目から機能目的を読み取る必要があります。さらに地面の凹凸がある場所で正確な車両基準位置を算出するには、車体の傾きが受信機位置と基準位置の関係を変化させるため、車体IMUで車体の傾きを計測し補正することが必要になります。これは、位置推定に姿勢補正を組み込むことで、凹凸地盤という運用条件に耐える設計にしている点が本問の狙いです。 ブレード(排土板)の制御では、10ミリ秒周期でブレード下端の高さを一定に保つ必要がある一方で、車両基準位置データの更新周期は相対的に長く、測位データだけでは高頻度制御に追従できません。このため、ブレードIMUおよび車体IMUを用いて補正し、高頻度での姿勢・位置変化を追跡して制御入力を補完する必要があります。ここは午後Ⅰで最も典型的な失点ポイントで、IMUを「精度向上のために使う」と一般論で書くのではなく、10ミリ秒という制御周期に対して測位更新が不足するため補完が必要だ、という周期差の根拠を必ず示すべき箇所です。作業継続の検知についても、排土位置付近への移動へ切り替える条件として、油圧シリンダの油圧センサーで押土土砂がなくなった状態を検知する点が重要です。ここでの読解ポイントは、作業状態が「場所」ではなく「負荷状態」として観測され、油圧という物理量が状態遷移のトリガーになっている点であり、組込みシステムとしてセンサ値を工程制御に接続する能力が問われています。 設問3は機能追加と障害対策で、可用性と特殊環境への適応が扱われます。二つの異なる回線のP5Gを採用する目的は、一方の回線を使用した通信ができなくなる障害に対策するためであり、外部サービス連携が前提のシステムにおける単一障害点の低減という設計判断になります。午後Ⅰで重要なのは、冗長化を「二系統で安心」と述べるのではなく、「通信不能という障害モード」を想定し、それに対する対策として系統を分けていると、障害と対策を対応付けて説明することです。トンネル内での自己位置推定ではGNSSが利用できないため、壁面に設置した異なる模様のプレートを3D-LiDARで認識し、トンネル内の絶対位置の検出や自己位置推定の補正・精度向上を図ります。ここでの読解ポイントは、プレートが単なるランドマークではなく、推定誤差の累積を抑える外部参照点として機能している点であり、GNSS不可環境での継続運用を成立させるために「補正機会」を設計に組み込んでいることを説明できるかが差になります。センサーフュージョンに関する論点では、自己位置推定の精度向上のためには各センサーの検出精度、処理時間、耐環境性を把握しておく必要がある点が示され、これはどのセンサーをどの程度信頼し、どのタイミングで統合するかが、精度だけでなくリアルタイム性と環境耐性にも依存するという実務的な見方を問うています。 本動画で視聴者が学べるのは、午後Ⅰで得点が安定する読解と記述の型です。具体的には、センサー併用の理由を環境条件と性能劣化の因果で書く方法、通信異常をフェイルセーフ挙動と結び付けて説明する方法、測位補強データの役割を高精度測位の成立条件として整理する方法、凹凸地盤での基準位置算出を姿勢補正の必要性として説明する方法、更新周期差を根拠にIMU補完の必然を示す方法、油圧センサーを工程制御の状態遷移トリガーとして扱う方法、冗長化を障害モードと対策の対応で説明する方法、そしてGNSS不可環境での絶対位置参照と補正の設計意図を論理的に述べる方法です。本問の難所は、L5GとP5Gの役割分担を混同すると原因分析が崩れる点、IMUを単なる高精度化としてしか捉えないと周期差という核心が抜ける点、プレートの意味を「目印」に矮小化すると補正の必然が説明できない点にあります。これらを外さずに説明できれば、午後Ⅰとして高い再現性で得点できるようになります。 最後に、この動画を見る意義をまとめると、令和5年度(2023年度)秋期 エンベデッドシステムスペシャリスト試験 午後Ⅰ 問1を通して、建設機械の自動・自律運転という高難度領域で、通信・測位・センサー・制御・可用性という複数論点を、問題文の条件から一貫して組み立てて説明する手順を身に付けられる点にあります。正解語句の暗記ではなく、なぜその設計が必要かを根拠付きで書けるようになることで、初見の午後Ⅰでも短時間で論理が崩れない答案を構成できる再現性が高まり、得点の安定化に直結します。