情報処理技術者試験解説チャンネル

応用情報技術者試験をはじめとする情報処理技術者試験の午後問題では、「過去10年分を確実に理解しているか」が合格ラインを左右するといわれています。当チャンネルでは、その10年分の午後問題を要点だけに絞り、約10分のコンパクトな解説としてまとめました。限られた時間でも効率よく学習を進められる構成です。

【動画解説】令和4年度 秋期 エンベデッドシステムスペシャリスト試験 午後Ⅰ問1過去問題解説

www.youtube.com 本動画では、令和4年度 秋期 エンベデッドシステムスペシャリスト試験 午後Ⅰ 問1を取り上げ、パワーアシストスーツPAスーツ)を題材に、システム仕様の読解、状態遷移設計の意図、リアルタイムOS上のタスク構成とタスク間通信、そして改良要件を安全性と整合性の観点で既存設計へ組み込む考え方までを、出題趣旨と採点講評で評価される観点に沿って一貫した流れで解説します。午後Ⅰのエンベデッド系事例は、図表や仕様文章の情報を拾い集めるだけでは得点に直結しにくく、状態遷移の条件がどのセンサ値に依存し、どのタイミングで確定され、タスク間でどの情報が通知されて状態判定とモータ駆動へ接続されるのかを、因果関係として崩さずに説明できるかが合否を分けます。本問は「人の動作を補助する装着型ロボット」という安全要求が高い題材であるため、誤動作をどう防ぎ、危険動作をどう検知し、アシストレベルをどう適切に追従させるかといった設計上の理由付けも含めて問われており、採点講評の観点では、主語を曖昧にせず機能単位で説明すること、センサ値の意味を取り違えないこと、時間制約を数値で裏付けることが重要な論点になります。 まず設問1は、PAスーツの基本仕様と状態遷移の読解が中心で、午後Ⅰの読解ポイントは、状態名を暗記するのではなく、どのセンサの変化がどの作業動作に対応し、その結果としてどの遷移番号で状態が切り替わるのかを、動作の方向性と紐付けて整理することです。「持上げ」状態のときに角度センサーの値が増えるという条件は、腰を起こす動作へ移行していることを意味し、状態遷移図(図4)の遷移番号⑧に従って「持下げ」状態へ遷移します。ここで重要なのは、角度センサ値の増減と、身体動作の対応関係を逆に解釈しないことであり、午後Ⅰでありがちな失点は、数値変化の向きと状態名の印象だけで判断してしまい、図の矢印と一致しない説明になることです。本動画では、角度が増えるという記述を「腰が起きる方向」と言い換え、状態遷移の矢印が意味する制御目的を言葉で再構成しながら確認します。 同じ設問1の誤動作防止は、本問の中でも典型的な差がつく論点です。肘掛けのある椅子から立ち上がる場面で、肘掛けに置いた手で手袋スイッチがONになり、前屈みの姿勢変化で角度センサーの値が減少することで「持上げ」の条件を満たしてしまうという誤遷移が起きます。ここで合否を分けるのは、誤動作の原因を単に「スイッチが押されるから」と表層で終わらせず、「入力が偶然成立する姿勢が存在する」という状態判定ロジックの弱点として捉え、追加条件をどのセンサで補うべきかを筋で説明できるかです。追加条件(条件a)として「背中にあるIMUのY軸の値が0近辺でないとき」を入れるのは、直立時や着席時の姿勢をIMUで識別し、椅子から立つという動作の一部を誤って荷物持上げ動作として解釈しないためです。採点講評の観点では、追加条件の文字を写すだけではなく、なぜIMUのY軸で姿勢判別が補完できるのかという理由付けが一段深い理解として評価されます。本動画では、既存条件が「手の操作+角度変化」で成立してしまうケースを、背中姿勢の情報で排除するという設計意図として整理します。 設問2は制御部のソフトウェア構成とリアルタイム性の評価で、午後Ⅰの読解ポイントは、タスク名と通知内容を「状態判定の入力」「アシストレベルの決定」「モータ駆動の出力」という機能の流れに沿って接続することです。制御タスクが下肢角度計測タスクから下肢の角度情報を受け取り、PAスーツの状態判定を行うという構造は、センサ処理を分離して制御判断を集中させる典型設計です。さらにアシスト管理タスクとの間でアシストレベル情報やPAスーツの状態をやり取りすることで、状態判定結果が支援出力の大きさへ反映され、また必要に応じて管理側の設定や制限が制御へ戻る双方向の協調が成立します。ここを「情報を渡す」と曖昧に書くのではなく、どのタスクがどの情報を受け取って何を決めるかを明確に述べることが、採点講評で求められるタスク設計理解に直結します。 リアルタイム性の計算は、エンベデッド系午後Ⅰの典型で、合計時間の算出自体よりも「どの区間の最大実行時間を評価しているか」を正しく定義できるかが重要です。本問では、下肢角度計測タスクの起動からモータータスクの動作完了までの最大実行時間を、各タスクの最大実行時間の合計で求めるという前提になっており、下肢角度計測タスク5マイクロ秒、制御タスク500マイクロ秒、モータータスク10マイクロ秒を足して515マイクロ秒となります。午後Ⅰでは、割込みや優先度による割り込み実行などの一般論を勝手に持ち込んで複雑化するより、問題文が与える評価条件に忠実に、対象区間と加算対象を一致させることが正確性の基本です。採点講評的には、対象区間を誤って別タスクを足したり、単位をミリ秒にして桁を誤ったりするミスが出やすい箇所であり、本動画では単位監査と検算の観点で整理します。 設問3は改良要件と安全対策で、仕様追加が既存設計へどう入り込むかを問うパートです。荷物重量に応じたアシストレベルの自動追従機能では、足裏荷重センサー付きの靴を追加し、アイドル状態から持上げ状態へ遷移した瞬間に、足裏荷重情報からあらかじめ設定した体重を引いた値を荷物重量として記録します。ここで重要なのは「いつ記録するか」が状態遷移の瞬間である点で、動作の途中で記録すると荷重変化が混ざって重量推定が不安定になります。状態遷移の境界は、センサ値が意味を持つタイミングを決める設計上の基準でもあるため、この時点の選択が合理的であることを説明できると、午後Ⅰとして説得力のある答案になります。危険動作の検出では、作業者のふらつきを検知するためにIMU計測情報、具体的には角速度を用いるという点が示され、ここも「IMUを使う」では不十分で、ふらつきが角速度の異常として観測されるという観測量と現象の対応を外さないことが大切です。さらに筋電位センサーによる筋肉負荷の計測では、筋肉への負荷を直接計測し、一定時間を超えた場合にブザーで作業中止を促すという安全機能が成立しますが、ここでの論点は、単発の閾値超過ではなく「一定時間」という時間条件を入れることで、瞬間的なノイズや一過性動作と、継続的な過負荷を区別する設計意図がある点です。安全対策は機能追加の羅列ではなく、誤検知と見逃しのバランスをどう取るかという理由付けが重要であり、本問はその視点を答案で示せるかを見ています。 本動画で視聴者が学べる内容は、状態遷移図をセンサ値の物理的意味と結び付けて読む方法、誤動作が生じる条件を入力の偶然一致として特定し、追加センサ情報で条件を補強する設計の考え方、リアルタイムOS上でタスクがどの情報を受け取って何を決めるかを主語付きで整理する書き方、そして仕様追加を安全要件として整合させるときに「記録タイミング」「観測量」「時間条件」を軸に設計意図を説明する手順です。本問の難所は、角度センサの増減と状態の対応を誤ると設問1が崩れる点、誤動作シナリオを姿勢と入力条件の組合せとして理解できないと追加条件の意味が薄れる点、タスク間通信を単なるデータ受け渡しとして曖昧に書くと採点講評が求める粒度に届かない点、そして安全機能追加で「どの瞬間の値を記録するか」「どのIMU指標を使うか」「時間条件をどう置くか」を論理立てて説明できないと説得力が落ちる点にあります。午後Ⅰは文章量に制約がある分、要点を因果で結び、設計としての必然性が伝わる書き方ができるかが、最終的に合否を分けます。 最後に、この動画を見る意義をまとめると、令和4年度 秋期 エンベデッドシステムスペシャリスト試験 午後Ⅰ 問1を通して、装着型アシスト装置という安全要求の高い組込みシステムを題材に、状態遷移とタスク設計を一体として読み解き、誤動作防止と危険検知の追加要件を既存仕様へ矛盾なく組み込む思考手順を身に付けられる点にあります。PAスーツという題材に不慣れでも、センサ値の意味、状態境界の使い方、タスク間通信の整理、リアルタイム性の評価という普遍的な論点を、IPA過去問の形式で一度に鍛え直すことができます。結果として、初見の午後Ⅰ事例でも、図表と仕様の情報を根拠にして短い文章で正確に説明する再現性が高まり、得点の安定化に直結します。