情報処理技術者試験解説チャンネル

応用情報技術者試験をはじめとする情報処理技術者試験の午後問題では、「過去10年分を確実に理解しているか」が合格ラインを左右するといわれています。当チャンネルでは、その10年分の午後問題を要点だけに絞り、約10分のコンパクトな解説としてまとめました。限られた時間でも効率よく学習を進められる構成です。

【動画解説】平成31年度 春期エンベデッドシステムスペシャリスト試験 午後Ⅰ問1過去問題解説

www.youtube.com 本動画では、平成31年度春期 エンベデッドシステムスペシャリスト試験 午後Ⅰ 問1を取り上げ、気象データの収集と局地的大雨などの予測を行う「気象観測・予測システム」を題材に、システム全体構成の読解、ハードウェアの消費電力とメモリ容量の見積り、そしてリアルタイムOS上でのタスク設計と優先度制御という、組込み開発で必須となる論点を、問題文・解答例・採点講評の狙いに沿って解説します。午後Ⅰで問われるのは、個々の用語説明ではなく、要求と制約を与件から抜き出し、数値条件を落とさず計算に落とし込み、さらにマルチタスクの実行順序がシステムの安全性や省電力要件にどう影響するかを論理的に説明できるかという、実務に直結する読解力と設計力です。 本問の出題趣旨は、分散配置されたディジタル百葉箱から収集される気象データの時系列整合性を確保しつつ、限られた電力と記憶領域の下で、通常モードと節電モードを適切に切り替えながら観測・撮影・通信を安定して実行できるようにする、というシステム設計の総合力を評価する点にあります。採点講評が強調しがちなポイントは、計算問題の正確さ以上に、組込みで典型的な落とし穴である「タスク優先度や実行順序の不備がモード切替や制御に与える影響」を理解し、必要な優先度変更を根拠付きで説明できるかに置かれています。 設問1はシステム構成と動作の読解で、時刻同期が予測精度に直結するという前提を正しく捉えることが重要です。各地に配置されたディジタル百葉箱のデータ収集時刻がずれてしまうと、同一時刻の気象状態として比較・学習すべきデータが時系列的に混ざり、AIエンジンによる局地予測の精度が劣化します。したがって、全端末の収集時刻を一致させるための時刻設定は、分析装置が一斉に指示を出して全端末を同期させる、すなわち同報通信で時刻設定を指示するという運用が自然になります。また、分析装置が収集データを地理情報として扱うためには、通信IDを単なる識別子として終わらせず、ディジタル地図上の位置情報と結び付けて参照できる状態にしておく必要があります。午後Ⅰの読解ポイントは、通信やデータ形式の説明に流れず、なぜ時刻同期が必要か、なぜIDと位置の対応付けが必要かを、予測の前提条件として説明できるかです。 設問2はハードウェア設計で、節電モードの消費電力量とフラッシュメモリ容量という、組込みの現実的制約を数字で詰める力が問われます。(1)の節電モードでは動画撮影を行わないという条件が決定的で、制御部と通信部を中心に平均消費電力を積算し、1日24時間当たりの電力量へ変換します。解答例として4.6Whが示されるのは、ミリワットの平均値をワットに直し、時間を掛け合わせる手順を丁寧に踏むこと、そして「節電モードでは何が動かないか」を読み落とさないことが採点の狙いだからです。午後Ⅰの計算問題で頻出の失点要因は、単位の取り違えと、動作しない機能の消費電力を足し込んでしまう条件漏れであり、本問はまさにその基本を確認しています。 (2)のフラッシュメモリ容量は、気象データ、静止画、動画という種類の異なるデータが、どの頻度で保存され、いつ送信され、いつ削除されるかというライフサイクルを踏まえて、最大滞留量を見積もる設問です。単に1回分のデータ量を足すのではなく、送信周期や削除タイミングによってメモリに同時に存在し得るデータの合計が決まります。解答例が76Mバイトとなるのは、各データのサイズ条件と、送信までの保持期間という時系列条件を正確に追跡できるかが問われているためで、午後Ⅰの読解ポイントは「最大同時保管量」という観点で条件を整理し、送信後に削除される前提を反映させることです。 設問3はソフトウェア設計で、リアルタイムOS上のタスク遷移、送信後処理、そして優先度設計が論点になります。(1)のタスク遷移では、通信タスクやカメラタスクが、通常・節電という動作モードと、動画撮影開始・終了の指示に従ってどの状態へ遷移するかを、図や状態遷移の文脈に合わせて埋めることが求められます。ここで重要なのは、タスクの存在目的が「機能を動かすこと」だけでなく、「モード指示や外部指示に対して決められた順序とタイミングで反応すること」にあるという点で、午後Ⅰの読解ポイントは、どの指示がどのタスクに影響し、どのモードでどのタスクが抑止されるのかを、与件通りに過不足なく当てはめることです。 (2)の送信後処理は、通信タスクがデータを送った後、フラッシュメモリを空けるために送信済みデータを削除する必要があるという、メモリ制約に直結する実務的な論点です。送信できたのに削除しない設計だと、メモリが徐々に埋まり、やがて新規データを保存できず、観測・予測の前提が崩れます。午後Ⅰの読解ポイントは、「送信が完了したら終わり」ではなく、リソース管理まで含めて一連の処理として捉えることです。 (3)のタスク優先度は採点講評でも強調されやすい山場で、現状の優先度だと動作モードの切替が他タスクに阻害され、節電への移行や復帰が遅れる、あるいは指示が反映されないといったリスクが発生します。モード切替はシステム全体の動作を決める基盤的制御であり、これが遅れると、節電すべき場面で電力を浪費したり、逆に必要な撮影や通信が抑止されたりして、要件違反につながります。したがって、状態変化を最優先で反映させるために、モード管理タスクの優先度を高に変更するという設計判断が妥当になります。午後Ⅰの読解ポイントは、優先度変更を単なる定石として書くのではなく、モード管理が遅れると何が起き、どの要件(省電力、観測継続、運用指示反映)にどう影響するかを、因果で説明できるかです。組込みでは「正しい処理」を書くだけでは足りず、「正しい順序で実行される」ことが品質そのものになるため、ここが合否を分けやすい論点になります。 この問題の難所は、電力・容量の計算そのものよりも、どのモードで何が動くかという条件を漏らさず、データの滞留と削除のタイミングを含めたリソース設計として捉え、さらにタスク優先度がモード切替の即応性を左右するというリアルタイム設計の本質を理解しているかにあります。とりわけ、モード管理タスクを高優先度にする理由を、単に「重要だから」ではなく、他タスク実行中でも確実に状態を切り替え、全タスクの振る舞いを速やかに整合させる必要があるという設計上の必然として説明できるかが、採点講評の意図と一致します。 最後に、この動画を見る意義をまとめます。平成31年度春期 エンベデッドシステムスペシャリスト 午後Ⅰ 問1は、分散観測というシステム要件を時刻同期とID対応で成立させ、電力とメモリという制約を定量的に見積もり、リアルタイムOSのタスク設計としてモード切替と実行順序を破綻なく作り込むという、組込み設計の王道論点が一問に凝縮されています。本動画では、時刻同期の意味付け、IDと位置情報の対応の必然、節電モードの電力量見積りの条件整理、データ滞留を踏まえたフラッシュ容量の考え方、送信後削除というリソース管理、そしてモード管理タスク優先度の理由付けまでを一貫した流れで解説します。過去問の理解に留まらず、リアルタイム制御とリソース制約を扱う午後Ⅰ問題で、与件から条件を抜き出し、設計の因果を答案化する力を再現可能な形で身に付けられることが、この動画を視聴する最大の価値です。