情報処理技術者試験解説チャンネル

応用情報技術者試験をはじめとする情報処理技術者試験の午後問題では、「過去10年分を確実に理解しているか」が合格ラインを左右するといわれています。当チャンネルでは、その10年分の午後問題を要点だけに絞り、約10分のコンパクトな解説としてまとめました。限られた時間でも効率よく学習を進められる構成です。

【動画解説】平成28年度 秋期 ITストラテジスト試験 午後Ⅰ問2過去問題解説

www.youtube.com 本動画では、平成28年度 秋期 ITストラテジスト試験 午後Ⅰ 問2「地域医療情報連携システム」を題材に、与件に示された現状課題をどのように構造化して把握し、連携システムの機能と運用設計に落とし込んで解答へつなげるかを、提供された資料(出題趣旨・採点講評を含む想定)に基づいて解説します。午後Ⅰの合否は、医療というドメイン知識の多寡ではなく、ヒアリング結果や運用方針の記述から、課題の因果関係と解決手段を正確に対応付ける読解力で決まります。本問は、地域医療の質向上と効率化という目的を掲げつつ、総合病院、地域の医院・診療所、訪問看護サービス事業者、調剤薬局事業者といった多様なプレーヤが関与するため、課題が「機器稼働の偏在」「夜間救急の情報欠落」「多忙な医師との調整難」「現場の事務負担増への懸念」「運営主体(法人D)による継続費用管理」と複層化しています。ここを読み違えると、一般論の“情報共有が大事”で終わってしまい、設問が要求する具体的な効果や機能、検討事項に結び付かず失点につながる構造になっています。 シナリオとして、C市が地域医療の連携強化のために「連携システム」を構築し、法人Dを設立してサービス料金や更新費用を管理する計画であることが提示されます。重要なのは、連携システムが万能に何でもする話ではなく、与件に明記された課題を、機能としてどこまで吸収し、運用としてどこで補うかを設計する問題である点です。午後Ⅰの読解では、まず登場組織ごとに困りごとを切り出し、次にそれが起きている原因を与件の表現から確定させ、最後にシステム機能で解決できる部分と、運用ルール・体制で解決すべき部分を分けて整理することが定石になります。本問はこの定石を素直に当てはめるだけで高得点が狙える一方、設問2(2)のように「受験者が思い付きやすい解答」をあえて外してくる罠が仕込まれており、そこが難所になっています。 設問1は、連携システム導入による効果を、与件に即して端的に答える問題です。ここでの読解ポイントは、総合病院側では紹介患者の増加により検査機器が逼迫している一方、地域の医療機関側では検査機器を導入したものの稼働率が低いという、需給のミスマッチが明示されている点に気付くことです。連携システムが「医療機関保有する検査機器と予約状況を管理し、相互利用を促進する」という機能を持つ以上、検査機器を保有する医療機関にとっての直接効果は、検査依頼が増え稼働率が上がることになります。採点講評でもこの小問は正答率が高いとされる典型問題で、与件の対比構造をそのまま答案に落とせるかが問われています。逆に、ここで“地域医療の質が向上する”のように抽象化し過ぎると、設問が要求する効果の粒度から外れ、午後Ⅰらしい減点の対象になりやすい点に注意が必要です。 設問1の(2)は、救急搬送時に確認できる情報を二つ挙げる問題で、与件に答えが明示されています。夜間・休日にはかかりつけ医と連絡が取れず、治療中の病名と診療状況(治療中の病状)や処方薬の確認ができないことがある、という課題の列挙がそのまま“連携システムで共有すべき情報”になります。午後Ⅰでは、この種の問題で「電子カルテ情報」「アレルギー情報」などを思い付いて盛りたくなりますが、設問が問うのは与件課題の解消として何が確認できるようになるかであり、与件の語彙で「治療中の病状」「処方された薬」と書き切ることが最短距離です。ここは知識問題に見えて、実際は引用型の読解問題であり、本文の表現を答案で再現できるかが得点に直結します。 設問2は、共有サーバ上の訪問記録という具体的な情報資源をどう活用し、誰にどんなメリットを生むか、そして現場負担を増やさないためにどんな機能が必要かを問う構成です。(1)の読解ポイントは「訪問計画の見直しには、かかりつけ医と訪問スタッフが集まって話し合う必要があるが、日程調整が難しい」という運用上のボトルネックが明記されている点です。ここから、共有サーバに蓄積される訪問スタッフの記録(患者の日常の状態など)を医師が随時確認できれば、関係者が物理的に集まらなくても計画見直しの判断材料が揃う、というメリットを導けます。つまり、“情報共有で効率化”ではなく、“会議体を前提とした運用を、非同期の情報参照に置き換える”という変化を、与件の言葉に沿って表現する必要があります。この粒度で書けるかどうかが、午後Ⅰの差分になります。 (2)が本問の最大の難所です。訪問看護サービス事業者から「事務作業が増えないようにしてほしい」という要望が提示され、さらにパートタイム労働者が多く、人件費負担が増える設計は避けたいという制約が重ねられています。ここで多くの受験者が連想するのが、モバイル端末で訪問先から入力できる仕組みや、入力支援UIといった“入力行為の容易化”です。しかし採点講評のポイントとして強調されているのは、負担の本質が「入力の場所」ではなく「二重入力」にあるという点です。与件では、訪問スタッフは所属事業者の業務システムに訪問記録を登録し、さらに連携システム(共有サーバ)にも同じ内容を登録する計画が示されています。したがって必要な機能は、事業者側で蓄積した訪問記録を共有サーバへ反映する連携機能であり、既存の業務システム資産を活用して追加作業を発生させないという設計思想が評価されます。ITストラテジストとしては、現場の要望を“気持ち”として受け止めるのではなく、業務プロセス上のどこで作業が増えるのかを特定し、それをシステム間連携で除去する、という解決策へ落とすことが求められています。ここを外すと、いかに便利そうな仕組みを書いても、設問の狙いから外れた解答として減点されやすく、合否を分ける典型ポイントになります。 設問3は、法人Dが行うこととして、導入推進と料金設計の観点からの検討事項を問う構成で、技術よりもマネジメントとガバナンスの素養が問われています。(1)では、電子カルテ導入に当たっての検討内容として、所見の記述方法の統一が挙げられます。ここは“電子カルテを入れる”という技術導入が、実際にはデータの標準化、入力ルールの統一、運用の合意形成といった地道な作業を必要とすることを理解しているかが問われています。総合病院の経験として、記述方法を統一する作業に多くの時間が掛かった、という具体的な示唆が与件にあるため、そこを拾って答案化できるかが読解ポイントです。また推進上の留意点として、中核総合病院の支援を得ることが正答となるのは、C市が中核総合病院を中心に医療業務改善を検討する計画を持ち、かつ中核総合病院が既に統一作業の経験とノウハウを持つという、与件の前提が揃っているからです。午後Ⅰでは「誰が支援するのか」を抽象語で逃げず、与件に登場する主体を指定して書くことで、答案の根拠が明確になります。 (2)はサービス料金の検討で考慮すべき情報を問うもので、法人Dが運用費用だけでなく、5年後に予定されるシステム更新費用も負担する計画が明記されています。ここから、料金設計において将来の更新費用を織り込む必要がある、と結論付けるのが正解です。ITサービスは構築して終わりではなく、ライフサイクルでコストが発生するという前提を、与件の具体的な年限と結び付けて書けるかが評価点になります。午後Ⅰの解答としては、単に“更新費”と書くのではなく、“5年後に実施予定のシステム更新費用”と与件の条件を保持した表現にすることで、設問要求への適合性が高まります。 出題趣旨の観点では、本問は地域医療の現場課題を素材にしつつ、評価したいのは「課題を正確に特定し、システム機能で解決できる部分を具体策として示し、導入・運用・費用といった継続性の論点まで含めて整理できるか」というITストラテジストの基本能力です。採点講評で示される重要ポイントは、与件から直接導ける効果や共有情報を取りこぼさないことに加え、設問2(2)のように、受験者が“もっともらしい一般解”に流れやすい箇所で、業務実態に根差した真の負担要因(二重入力)を見抜き、既存システム活用と連携で解決する解答に到達できるか、という点にあります。合否を分ける論点は、まさにこの「要望の背後にある業務上の原因を特定し、機能要件として具体化する力」に集約されます。言い換えると、ITの提案を“新しい仕組みを足す”方向だけで考えるのではなく、“既存の業務・システムの流れの中で無駄を消す”方向で設計できるかどうかが、午後Ⅰの高得点を左右します。 本動画で得られる学びは、平成28年度 秋期 ITストラテジスト試験 午後Ⅰ 問2の正解理解に留まりません。医療のように関係者が多く、目的と制約が交錯する題材に対して、登場主体ごとの課題を分解し、システム機能と運用設計のどちらで解決するかを切り分け、設問の要求する粒度で答案化するという、午後Ⅰで再現性の高い読解・解答プロセスを身に付けることができます。特に、採点講評で指摘されがちな“抽象化し過ぎ”“与件にない思い付きの追加”“利便性の語りだけで終わる”といった失点パターンを避け、与件根拠に基づく具体的な効果・情報・機能・検討事項を、短い解答欄へ過不足なく落とし込むための考え方を、論理的に整理して提示しています。 最後に、この動画を見る意義をまとめます。ITストラテジスト試験の午後Ⅰは、知っていることを語る試験ではなく、与えられた事実から正しい結論を導く試験です。本問の「地域医療情報連携システム」は、社会的意義が大きい題材であると同時に、課題の本質を見誤ると一般論に流されやすい典型でもあります。本動画では、出題趣旨と採点講評の観点を踏まえながら、どの記述がどの設問の根拠になるのか、なぜその機能が必要なのか、どこが難所で、どう読めば外さないのかを一貫した流れで解説しました。過去問の理解を通じて、次の年度・次の問題でも通用する午後Ⅰの読解力と答案作成力を獲得するために、ぜひ本動画を活用してください。