www.youtube.com 平成30年度 秋期 ITサービスマネージャ試験 午後Ⅰ 問2(リリース及び展開管理)は、グローバル化で稼働時間が拡大し「止められない」前提になったときに、展開手順をどう設計し、緊急変更と計画変更の整合をどう維持するかを問う事例です。ポイントは、AP展開ツールの処理手順(LB閉塞→デプロイ→閉塞解除を機械的に順次実行)を正確に読み取り、インシデント時の暫定復旧と恒久対策、さらに本番・テスト環境・リリースモジュール間の差分を放置しない運用を、役割分担に沿って説明できるかにあります。 設問1は、AP展開ツール導入の利点です。一般論の「作業ミス防止」「品質向上」は除外条件なので、ツール固有の価値を答える必要があります。表3の手順が示す通り、このツールはLBの設定変更により対象APサーバへの通信を一時的に止め、対象サーバへデプロイし、完了後に通信を戻す動作を1号機から順次繰り返します。これにより、ある1台を更新中でも残りのAPサーバが処理を継続できるため、従来のように全APサーバを停止してデプロイする必要がなくなる場面が生まれます。したがって利点は、稼働環境にデプロイするときにサービス停止を伴わずに展開できる場合がある、という点に集約されます。稼働時間が長く確保できる停止枠が取れない状況に対して、運用設計としての解を提示できているかが評価点です。 設問2(1)は、データ修正作業の順序を「修正プログラムのデプロイ→データの誤り修正」とする理由です。ここでの中心論点は再発防止です。不具合を含むプログラムが稼働し続けている状態でファイルやデータを修正しても、同じ処理が再度実行されれば再びデータが破壊され、修正が無駄になります。したがって、まず原因となるプログラム不具合を修正し、誤り発生が再現しない状態を作ってから、データを正に戻すという順序が合理的です。加えて本問では、AP展開ツールがデプロイ完了後にLB閉塞解除まで実施する仕様であるため、手順を逆にして「LB閉塞→データ修正→デプロイ」を考えると、ツールの自動解除挙動と作業手順の整合が崩れやすく、オペレーションが複雑化しリスクが上がります。答案としては、プログラム未修正のままデータ修正すると誤りが再発する点を主軸に書くのが堅く、ツール仕様に触れられるなら「デプロイ後にLB閉塞解除が行われるため」という補助理由で補強するのが適切です。 設問2(2)は、緊急対応の作業開始を22時から20時へ前倒しした理由です。ここは時差と利用者影響の最小化を結びつける問題です。本文に「欧州支社の1時間の休憩時間帯の開始時刻に当たる東京本社の20時」という手掛かりがあるため、20時開始は欧州側の利用が相対的に少ない時間帯に合わせた判断だと分かります。一方で22時開始は欧州側の業務時間帯にかかり、サービス利用者の操作や業務処理と衝突しやすく、影響が大きくなります。したがって、22時だと欧州支社の利用中時間帯に当たり業務影響が大きいので、利用が減る休憩時間帯開始に合わせて20時にした、という説明が要点になります。 設問3(1)は、10月4日の緊急修正後に、運用課がテスト用サーバに対して速やかに実施すべき内容です。ここで重要なのは、誰の役割として何をするかを外さないことです。緊急対応で稼働環境の売上PGと共通PGが修正されましたが、テスト環境は10月12日のリリースに向けたテスト中で、緊急修正が反映されていない状態になっています。この差分を放置すると、開発・テストが古いコードベースで進み、後続のリリース準備や検証の整合が崩れます。運用課の役割はビルドとデプロイであるため、答えるべきは「売上プログラムと共通プログラムをテスト用サーバの開発環境にデプロイする」という行為になります。ここで「修正する」と書くと開発課の役割になり、設問意図から外れます。 設問3(2)は、10月12日の業務ルール変更のリリースモジュールに追加で修正すべき内容です。10月12日用モジュールは10月3時点で承認済みであり、10月4の緊急修正が含まれていません。そのまま10月12に展開すると、共通PGの不具合修正が巻き戻され、バグが復活する、いわゆる先祖返り(デグレード)が発生します。したがって、10月4に行った共通プログラムの不具合修正内容を、10月12リリースモジュールへ取り込むことが必要になります。ここは変更管理と構成管理の接点であり、「緊急変更を計画変更へ確実に反映する」統制を問うています。 設問3(3)は、(2)の取り込み後に追加で実施すべきテストです。緊急修正を計画リリースへマージした以上、その修正が他の機能や変更内容に副作用を与えていないことを確認する必要があります。したがって、修正に伴う想定外の影響が出ていないかを確認する回帰テストの観点で記述するのが適切です。ここでの評価点は、単に「テストする」ではなく、何のためのテストか、つまり修正取り込みによる影響範囲確認であることを明確にすることです。 本問全体の学習ポイントは、展開ツールの挙動を前提に“止めずに展開する”運用を成立させること、インシデント対応では「原因(プログラム)を止血してから結果(データ)を直す」という順序を徹底すること、そして緊急修正と計画リリースの差分を放置せず、環境同期とリリースモジュールへの取り込み、回帰テストまでを一連の統制として説明できることです。さらに、役割分担(開発は修正・テスト設計、運用はビルド・デプロイ)を答案の動詞レベルで守れるかが、得点を左右します。